割安に放置される株価のバリュエーションと高い資本コストに関する弊社の考察
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- 世紀東急の2021年3月期税引後経常利益ROEは15.1%(※)となり、比較的高い水準です。翻って世紀東急のPBRをみると、0.86倍となっており、解散価値程度でしか評価されていません。
- (出所:QUICK ASTRA MANAGERより弊社作成、2021年5月19日現在)
- ※世紀東急は、2021年3月期は税務上の繰越欠損の計上により税負担が少なく、また、11億円の減損損失を計上しているため、経常利益から実効税率を控除した税引後経常利益ROEを記載している。なお、2021年3月期当期純利益を用いたROEは13.4%。
- 2021年3月期税引後経常利益ROE
- =2021年3月期経常利益×(1-2020年3月期実効税率)/2020年3月期末及び2021年3月期末平均自己資本
- 残余利益バリュエーション理論(トピック1をご参照ください)を用いて、世紀東急のPBRが低水準である理由を考察すると以下の仮説が考えられます。
- 現在の自己資本が積み上がる資本政策を採用している限り、将来のROE低下は不可避であり、将来のROE低下を織り込んでバリュエーションが低水準となっている(詳細はこちらをご参照ください。)。
- 世紀東急は、2015年以降だけでも公正取引委員会の立入検査を5回受け、課徴金を2回課されるなど、独禁法違反行為を何度も行っていることから資本コストが高水準となっている(詳細はこちらをご参照ください。)。
- したがって、世紀東急のバリュエーションが割安に放置されている主な理由は、繰り返された法令違反行為により株主資本コストが高まっていることに加え、株式市場が将来のROEの低下を懸念していることだと考えられます。
- また、PBR以外のバリュエーションとして、企業価値(以下「EV」といいます。詳細はトピック2をご参照ください)の観点からみると、世紀東急のEV/EBITDAは3.9倍となっています。 これは、現在の株価で世紀東急を買収した際の投資回収期間が約4年であるということを意味し、割安であることを示しています。つまり、資産を使って稼ぐ力(ROIC)が、投資家の要求利回り(加重平均資本コスト。以下「WACC」といいます。)を下回っているということです(※※)。
- ※※ROIC(投下資本利益率)がWACCよりも低くなるほど、企業価値は投下資本よりも小さくなるという考え方を前提としています。
- 以上のように、資本コストについての考察は投資家も行いますが、一方で、企業が認識している資本コストを知り、投資家との対話の土台として活用していくことも重要です。
トピック1:残余利益バリュエーション(Residual income valuation)理論
- 残余利益バリュエーション理論はROEや株主資本コストrや利益成長率gなどを用いて株主価値を算定する方法です。
- (詳細はこちらをご参照下さい。)
- 理論PBRは、ROEと利益成長率gが大きくなれば高まり、株主資本コストrが増加すれば低下することとなります。
- なお、(ROE-株主資本コスト)はエクイティスプレッドとも呼ばれ、エクイティスプレッドが0よりも大きくなれば理論PBRが1倍を上回ることとなります。
トピック2:企業価値(Enterprise Value、EV)
- EVとは、企業が株主や債権者から調達した資金を生産設備購入など(以下「投下資本」といいます。)に投資し、将来稼ぐ収益の現在価値を指します。また、投下資本に対してどの程度の収益を確保できたかは、投下資本利益率で計測されます。この投下資本利益率が投資家の要求利回りを上回っていれば、投下資本よりもEVは大きくなります。